小説

「大解体時代」を振り返る

このテキストは、私が反-重力連盟のSF短編アンソロジー『圏外通信2022』に書いた「「大解体時代」を振り返る」を加筆・修正したものです。 hanjuren.booth.pm でかい塔の解体によって駆動する文明の歴史 解体前史 〈塔〉の頂上は天に届いているともいわれた…

現代地質学講義

かぐやSFコンテスト 以下の文章は、第1回かぐやSFコンテスト(「未来の学校」をテーマとしたショートショートの創作コンテスト)にコッソリ出品していた作品です。嬉しいことにHonorable Mention (選外佳作)に名前をあげていただいたようです。せっかくな…

(セルフ)タイトル回収の話

タイトル回収 演出技法として「タイトル回収」がけっこう好きで、しかけられるたび「なるほどな~」と感心する。「なぜそのタイトルなのか」という謎が解ける快感なのか、コンテンツ内容とタイトルのマッチングの妙に感動しているのかは自分でもよくわからな…

作家読みの話

作家読み どの本を読むかを決めるとき、ぼくは基本的に「作家読み」をする。要は「前読んでよかった作者」の名前を覚えておいて、その人が新刊を出していたら読んでみる、「前の作品がおもしろかったなら、その人の次の作品も面白かろう」という考えに基づい…

ループする因果:「ドロステのはてで僕ら」

ドロステのはてで僕ら 先日、映画「ドロステのはてで僕ら」を観た。これが非常におもしろかった。 www.europe-kikaku.com 雑居ビルにあるカフェで起こった、SFめいた事象。 テレビとテレビが「時間的ハウリング」を引き起こし、2分前と2分後がつながった。…

「息吹」と『エンジン・サマー』とボイジャーの旅

はじめに 2019年12月4日、満を持してテッド・チャンの第二短編集『息吹』が発売された。今回は「物語が語られるということ」を焦点に、周辺の作品や情報を追いながら表題作の短編「息吹」を読み解いていきたい。 「息吹」の基本情報 息吹作者:テッド・チャン…

世界の階層性とフラクタル:『プラネタリウムの外側』

再帰構造をもつゲーム 最近、ツイッターでなにやらおもしろげなゲームの映像が流れてきた。 Excited to show off the other "main mechanic" of my game!Patrick's Parabox is a puzzle game about boxes, pushing boxes, and Patrick's Parabox.#screenshot…

serial experiments:断片化した物語の可能性

物語の順序 映画やドラマ、小説などの物語には「見る順番」「読む順番」がだいたい決まっていて、ふつうはその順番に従うのが一番楽しいようなつくりになっている。だいたい、一話の後に二話を見ること、一巻のあとに二巻を読むのがよい。 たとえば推理小説…

物語を俯瞰する目:マルチプレックスのすすめ

『エンパイア・スター』読んだか? 『エンパイア・スター』というのは、1966年にアメリカのサミュエル・R・ディレイニーが書いた中編SFである。一文要約すると、辺境の惑星で暮らしていた青年がある日「エンパイア・スターという星にメッセージを届ける」使…

てきとうライトノベル案内

縁うすい世界に眠っているお宝 ハーレクインって月に新刊が15冊、累計では3000冊以上出てるらしくて、ハヤカワSFがこの前2000冊記念で解説本を出してたことを考えても、これは大変な量である。 マーケットが大きければその中には名作があるにちがいない、と…

「あなたの人生の物語」のテキスト演出と、「メッセージ」の映像演出

先日アメリカに行く用事があって、帰りのアメリカン航空の機内で映画「メッセージ」(原題は「ARRIVAL」)を観た。国内でも映画館で観ていたので二回目ということになる。機内では特にやることもなかったので、暇に飽かせて一時停止と巻き戻しを繰り返しなが…