(セルフ)タイトル回収の話

タイトル回収

演出技法として「タイトル回収」がけっこう好きで、しかけられるたび「なるほどな~」と感心する。「なぜそのタイトルなのか」という謎が解ける快感なのか、コンテンツ内容とタイトルのマッチングの妙に感動しているのかは自分でもよくわからない。

タイトル回収にもいろいろあって、タイトルの単語自体は序盤のうちに出しておいて、ここぞというタイミングでタイトルの初見時のインプレッションとは違う側面にスポットライトを当ててみたり、「なんでこんなタイトルなんだろう?」とずっと思わせておいて中盤・終盤あたりでキーフレーズとして使ってみたり、さまざまなやり方での演出が行われている。

昔の作品ではあまり技巧的に用いられている例を見ないので、わりとここ百年くらいのもののようにも思う。
いつからこうした演出が自覚的に用いられるようになったのかは気になるところでもある。

タイトル回収は気がつくとうれしいので、コンテンツに触れるときはなんとなく常にタイトルを意識している気がする。ぜんぜんタイトルのことを考えていなくて、読み終わった後にパタンと本を閉じて、「あ、そういえばこんなタイトルだったな、なるほど、うまいな~」と感心することもある。

表紙回収

読み終わって本をパタンと閉じて気づくといえば、これタイトル回収ならぬ「表紙回収」じゃん、と思うことが稀にある。読み終わってみるとなんとはなしに見ていた表紙に実はしかけがあって――ということに気づいて感心したり、ゾッとしたりするのだ。

表紙回収はタイトルに比べ数も少ないのかあんまり気が付くことがない(著者のみによってコントロールされるわけではないのも大きいかも)が、パッと思いつく範囲ではこのへんが印象に残っている。

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右三つは大きなネタバレになるので一番左のディレイニー『ドリフトグラス』についてのみ説明しよう。

『ドリフトグラス』は書影の画像の文字が見えにくいが実際の本はそれ以上で、白の背景に透明な顔料でタイトルや著者名などを書いているので正面からはまともに読めず、いろいろな角度から反射光の違いを見てやっと判読できる、という感じの装丁になっている。
これはドリフトグラス所収の「エンパイア・スター」に登場する「マルチプレックスな視点」を装丁に用いた演出かな、と解釈できるデザインだ。
マルチプレックスな視点」は作中でいろいろなものの見かたを統合した上位の認知の方法と説明されていて、これを知っておくことで、「一面からは見えないが、いろいろな角度から見て読み取れる表紙」に、読む前とは違った見かたができるようになるわけなのだ。

xcloche.hateblo.jp

セルフタイトル回収

実のところディレイニー『ドリフトグラス』の装丁も装丁デザインの人はそこまで考えたのか? とか考えるとじゃっかんこじつけ感があるし、『モレルの発明』に至ってはこの表紙になった経緯(この本を映像的モチーフに用いた映画のワンシーンからとってきた)から考えると、どうもこの「表紙がストーリー内容を回収している」のは偶然の産物のようなのだが、製作者の意図はどうでもよくて、ぼくにとっては回収の解釈ができて強く「なるほどな~」と思えるかどうかが重要である(タイトル回収テクスト論の立場)。

というわけで、まず製作者は意図してないだろうけどもついつい勝手に回収してしまった「セルフタイトル回収」の事例もある。

あるときコアラのマーチの工場見学動画を見ていて、まるで進軍しているかのように整然と並んでオーブンに突入していくコアラの生地の様子に「あ!タイトル回収だ!だからコアラのマーチなんだ!」と思ったのはけっこう鮮烈な体験だった。


ちなみに公式による由来の説明はこちら。

www.walkerplus.com

江幡さん「体毛が灰色で1日のほとんどを寝て過ごし、動きの少ないコアラですが、ネーミングは『コアラが楽しくマーチングバンドを組んで、日本にやってくる』というイメージから付けられました。そして名前に合わせて、全12種の絵柄の中で約半数は太鼓やラッパなどの楽器を演奏しているものが採用されたんです」

どうぶつの森どこでもいっしょ

まあでも製作者の意図しない勝手なセルフタイトル回収なんてめったにないよな、とちょうど思っていたそのとき、ハライチのラジオ「ハライチのターン」の「どうぶつの森」についての岩井勇気のフリートークで、「動物たちの要求がエスカレートするわりに彼らはこっちにはなにもしてくれない」という内容のものがあった。

岩井:どうぶつの森はさ、だからどこまでやってもどうぶつの森なんだよね、やっぱり。
澤部:いやそりゃそうだろ、そうだよ
岩井:どんだけ動物のためにがんばっても、よそものの人間は、なじめない、だって "どうぶつの" 森だから

偶然の遭遇に、あ! セルフタイトル回収じゃん! とセレンディピティ?に驚いたのも重なってメチャクチャ笑った覚えがある。


あと最近流れてきたこのツイートで、ゲーム「トロとパズル~どこでもいっしょ~」内のワード学習機能でおそらくリラックスできる場所として「絞首台」とかいうのをAIに教え込んでおいて、それを勝手に自分で回収する、能動的セルフタイトル回収が行われていて不思議な感覚を覚えた。想像以上にタイトル回収の可能性の裾野は広い。