ミルクボーイの漫才風CM全部みる
2019年にM-1グランプリで優勝して以来、ミルクボーイを起用した漫才風CMを本当によく見るようになった。
どうも「オカンが忘れたもの」のシステムは商品紹介と相性バツグンで、笑いも入れつつ適度に情報を提示しながら宣伝するのにちょうどいい構造のようである。
が、何気なく見ていると、どこか違和感のあるヘンなCMが多いように思えてきた。
ミルクボーイの漫才はもともと商品紹介にすぐれたフォーマットなのだが、さらに微調整してCMに適応しているようなのだ。
ということで、ミルクボーイのシステム漫才の仕組みを概観したのち、Web上で閲覧できるミルクボーイの漫才風CMと比較して、本ネタとの構造的な違いやCM化にあたって行われている工夫を見ていこう。
本ネタとCM
まずは比較のために、コーンフレークをテーマとしたこちらの二つの動画を見てみよう。
www.youtube.com 本ネタ「コーンフレーク」
www.youtube.com CM「グラノラハーフ編 楽屋裏編」
どのくらい「違い」があるだろうか?
システム漫才の流れ
ミルクボーイの本ネタをフローチャート化すると、次のようになる。
ツカミ
漫才のツカミではまずは駒場が会場から何かを受け取るジェスチャーを行い、内海が「①あーありがとうございます、いま○○をいただきました こんなんなんぼあってもいいですからね」と受ける。ここで受け取るのはもらっても困るもの、なんぼあってもいいわけないものなことが多い。
メイン導入
メイン構造の導入部は、駒場の「ウチのオカンが好きな(ジャンル名)があるらしい」から入り、そこからなんやかんやあって忘れてしまったその名前を内海が一緒に考える「ほな俺がね、オカンが一番好きな〇〇一緒に考えてあげるからどんな特徴いうてたか教えてみてよ」の流れになる。ネタによってはここで変化があり、「好きな(ジャンル名)がある」と聞いた時点で「わからへんのでしょう?」で受ける(ミルクボーイのいつものシステムを対象化した)パターンや、「オカンが好きな(ジャンル名)のものなんて○○くらいでしょ」で受けるパターン、またその発展で「いや、オカンが好きな(ジャンル名)は絶対に○○や」と言う決めつけを連呼するループに入るパターン(内海の強弁ループ)などがある。内海の強弁ループは後のメイン構造の中でもたまに挿入されるサブ構造になっている。
メイン構造
駒場によって特徴が提示され、それを元に内海の主張が二転三転するのがメイン構造である。 メイン構造はヒントとアンチヒントによって構成されている。
ヒントパートでは、「コーンフレーク」だと「なんであんなに栄養バランスの五角形がでかいのかわからん」のように、テーマとなるものの真の特徴が提示される。特徴を聞いた内海は「そんなもんコーンフレークに決まりや」と、テーマのものであることを肯定し、「あの五角形には実は牛乳が含まれているのを俺は見逃さへんよ」などの補足説明で毒を入れる。
アンチヒントパートでは、「コーンフレーク」だと「死ぬ前の最後のご飯もそれでいい」のように、テーマとなるものの一般的に偽の特徴が提示される。内海はこれを受け、「あー、ほんならコーンフレークと違うわ」と、テーマのものであることを否定し、「コーンフレークはまだ寿命に余裕があるから食べてられる」のように補足説明で毒を入れる。
オチ
最後は駒場の「オトンが言うには〜」からはじまるオトンによるかすりもしないトンチンカンな推理でオチ、というのがミルクボーイの漫才の主な流れである。
CMのシステム
たくさんミルクボーイの本ネタとCMをみたところ、どうも本ネタのシステムは上で述べたように展開する一方、CMのシステムでは別のサブルールが適用されることがある。CMシステムのサブルールには次のようなものがある:
- ツカミで本当になんぼあってもいいものをもらう
- アンチヒントが偽の特徴ではなく、テーマ商品の知られていない特徴
- オトンのトンチンカンな推理ではなく、「実際の商品が出てくる」オチ
- 毒が弱い
順番に見ていこう。
ミルクボーイがCMでもらったなんぼあってもいいもの
なんぼあってもいいわけがないもの(本ネタのシステム)
- 跳び箱の6段目
- 警察手帳
- むちゃくちゃ長い延長コード
- 来客用スリッパの左側
- 宝くじの当選番号を決めるルーレットの矢
- どこかの信号機
- 長めの蛇口
- 理髪店前の赤青白のグルグル回るやつ
本当になんぼあってもいい/スポンサーが売りたいもの(CMのシステム)
どっち?
アンチヒントがなく、全てがヒントである(オールヒント)CM
www.youtube.com 明治QUARKのCM
www.youtube.com モンストのCM
これらの動画と冒頭にあげた「グラノラハーフ編 楽屋裏編」が、アンチヒントがなく、すべてが商品説明になっているCMの例である。
グラノラハーフやQUARKのCMではメインテーマのものはクライマックスになるまで出てこず、ヒントをもとに「ヨーグルト」→「チーズ」と内海の推量が変化していく、という変則構成になっており、商品である「明治QUARK」がヒントの特徴すべてを満たすものであることが最後に明らかになる。
モンストのCMでは、駒場側の「そのソシャゲは気前がいいキャンペーンをやっているらしい」メッセージに内海側が「モンストはそんなに気前がいいはずがない」立場を崩さないことで普段の本ネタのスタイルと一見同じ流れになっているが、その実本当に気前のいいキャンペーンをやっているわけなので本ネタの流れとしては成立していないという不思議な構造になっている。
明治QUARKに至っては「ミルクボーイの鉄板ネタには珍しい、まさかの展開が!?」とこの展開に自覚的なコピーを動画タイトルにつけている。
限られた時間に情報を詰め込むためであろう変則システムのこの工夫、普段のスタイルを意識して聞いてしまうと変な不安になるところもある(真/偽の対立構造が消失しているので)。
「実際の商品が出てくる」オチ
上の明治QUARKのCMで、駒場が「いやわからへんねんな」から実際の商品を懐から取り出して「パッケージが妙にオシャレやねんな」「いやあるんかい 先言えよ」「ほな食べてみよか」と展開しているように、オチを「これやねんけどな」にして実際の商品を提示して見せる流れは強いサブシステムで、いろいろなCMで採用されている。
中でも関西ペイントの「接触感染対策テープ」CMでの、オトンのトンチンカン推量からの商品提示二段オチがめちゃくちゃ気持ち悪くていいのでオススメしておく。 www.youtube.com 合成背景のグリーンバックが……
毒
ミルクボーイの漫才では、テーマとなるものの偏見に基づくあるあるの毒を吐く構図が重要なのだが、CMではテーマ商品の宣伝をする関係上、毒にあたる部分がなんかボンヤリしていたり、弱毒化しているのも注目である。
中でも「デカビタ」は、元々ミルクボーイが本ネタとしてデカビタをテーマにやっていたところにCMキャラクターとして起用され、本ネタに近い構造のCMが作られた経緯があり、同じテーマについて本ネタバージョンとCMバージョンの比較ができる稀有なサンプルである。
www.youtube.com デカビタ本ネタ
www.youtube.com デカビタCM
どちらも2分尺の両者を比較してみよう。
アンチヒント「売り切れてたら見つかるまで探し回る」を受けての「ほなデカビタと違うか、デカビタが売れてたとしてもね、リアルゴールドでまかなえるんやから」のキラーツッコミは当然CMではダメなので「デカビタはね、スーパーや自動販売機で見かけたらなんか買ってまうくらいのやつなんやから」に差し替えられている。
デカビタあるある自転車止めてたら絶対カゴに入れられてるらしいは本ネタ内のあるあるでは一番面白いのだが、もちろん企業イメージ最悪なのでカットされている。
全レビュー
ほか、いまWebで閲覧できるかぎりのミルクボーイの漫才風CMとその特徴を表にまとめた。ミルクボーイの漫才風CMをみたい人は適宜参考にしてほしい。