面白そうなタイトルに惹かれて記事を読みにいくと、ぜんぜんそのタイトルのことを書いていない━━あるいは、タイトルの問題提起が記事内でまったく解決されていない━━そういう事例に本当によく当たって、「また騙された〜」となることが多い。
実際の内容とは乖離した魅力的な見出し問題は、記事の読まれる・読まれないがクリック率などで簡単に数値化されうる状況で、即物的に数字を高めようとするSEO戦略の行き過ぎた結果なのだろう。
最近ではGoogleも「タイトルと内容が乖離している」コンテンツの信用ランクを低く評価して、検索で上の方に出ないようにする枠組みなどを実装しているそうだが、まあこのテの話はいたちごっこだったり、検索でなくtwitterで回ってくる記事などについては無力だったりで、今日も私たちは扇状的なタイトルの氾濫に曝されつづけている。
誰も本文を読んでいない
この問題の根深いところは、そもそも読者はタイトルだけみて記事の内容を読んでいないということだ。
アメリカ大統領選が本格化したころ、Twitter社がリツイート機能を「一度引用リツイート画面を遷移しないと、リツイートできない」ように仕様変更して、ユーザーにリツイートを行う前にワンステップだけ考えさせるように誘導したことがあったのは記憶に新しい。
それと時を同じくして、TwitterにURLつきの記事をリツイートしようとしたとき、その記事のリンクをクリックしていない場合、「見出しだけでは記事の中身はわかりません」警告を表示する機能が追加された。
かくいうぼく自身も、ネットニュースの見出しだけをみて「ふーん、そんなことがあったんだ」と思って、その見出しだけの知識で人に話してしまうことがたびたびある。
タイトルが内容のサマライズであるという約束事はもはやあまり守られていないのだが、守られていたころの慣性で、ついついタイトルの情報を過大評価してしまう、という状況が続いているように思う。
タイトル・内容・記事内の論理の乖離という点で、最近特に気になったものが3例あった。
マイバッグ普及で「万引き増加」約3割…どんな対策が必要?スーパーの協会に聞いた
FNNプライムオンラインのこの記事、タイトルからはレジ袋有料化にともなうマイバッグの普及で万引き件数が3割増えた……というふうにしか読めない。
が、記事の内容を読んでみると、この「3割」の正体は、全国スーパーマーケット協会が全国のスーパーマーケットに「マイバッグの普及により、万引きや盗難は増加したと感じますか」とアンケート調査したところ、約3割が「増加していると感じている」と回答した、というもので、記事タイトルから想像されるものとはまったく違うことがわかる。
さらに、このアンケート調査のを詳しくみると、
選べる回答が「かなり増加」「やや増加」「変わらない」「わからない」の4つで、どう転んでも「減少した」が結論になりえない、「万引きが増加した」既定路線の結論を導く相当のバイアスのかかったヤバげな調査だったらしいことがわかる。
さらに記事の後ろのほうには
今回の調査はあくまでも、スーパーマーケット側の印象を調査したものですので、「マイバッグの普及で万引きが増えている」と断言はできません。
警視庁の調査では、昨年の同じ時期に比べ、万引きの件数自体が減少しているとの報告もあります。
とあり、マジで何……?の気分になる味わい深い記事だ。
https://www.fnn.jp/articles/-/109838 - Twitter Search
この記事を引用したツイートの言及を検索したもの。マージで誰も記事を読んでないのがわかる
開業医3割が「閉院」検討 コロナで減収影響か
神戸新聞NEXTに載ったこの記事は、タイトルというより取材源の推論が怪しくて、それを取材した本文が怪しくなって、タイトルで怪しい部分がクローズアップされる……というケースだ。
「兵庫県保険医協会が、開業医らを対象に、自らの医療機関の将来に関する実態調査をしたところ、3割が「閉院」を検討していると回答した」というアンケートの結果をうけて、協会が
閉業予定と答えた開業医らが多かったことについて、同協会は「新型コロナの影響による減収が大きなきっかけになった」とみている。
と推論を述べている、というのがこの記事の要旨である。
ここで疑問になるのが、
* 「閉業予定と答えた開業医らが多かった」はこのアンケートから言ってよいか?
で、そもそもこの「開業医の継承、閉業の予定」の聞き取り調査を行ったのは今年の調査からなので、閉業予定が前と比べて増えているか減っているかわからないし、あらたに開業する医院もあるはずで、「閉業が多い」とも言えない(閉業と開業の代謝が常におこっている)からである。
地域医療の限界についての危惧を発信することの価値は大きいと思うが、そのための勇み足の怪しい推論にはウーンと思ってしまった。
ただ、正しい手続きの推論であることが問題を解決する助けにならなくて、虚飾でも危機感を煽ることの方に問題解決の糸口があるのカモ……と考えると、だんだんポスト・トゥルース時代の報道の正解がわからなくなってくる(この記事はそこまでの感じでもないが)。
宮崎駿、『鬼滅の刃』大ヒットは「僕には関係ないこと」複雑な胸中を明かした
この記事は本当に好きで、何回読んでもタイトルのように宮崎駿が鬼滅の刃への複雑な胸中を語っているようには見えず、ただただ記者に日課のゴミ拾いの邪魔をされて気分を害している空気だけを感じるので笑ってしまった。
見出しも本文もオーバーな週刊誌らしい記事だが、さすがにまるっきりのウソをつくわけにはいかなくて、ウソでないギリギリのラインまで宮崎駿の「複雑な胸中」をがんばって演出しているものの、その筆致にも限界があって、結局最後まで「ゴミ拾いを邪魔されて気分を害されているおじいさん」の印象から脱却することができなかった……そんな印象をもつ楽しい記事である。
タイトルだけをみると、全然そんな感じはない。
サマライズ
ちゃんと記事を読むように意識しようと心がけているものの、限界はあるし、なんでもない記事を読むためにも尋常でないリテラシーが要求される現状にはけっこう怖いものがある。
最近はこういったミスリードを有害と考えて、メディアポリシーとして扇状的なタイトルの記事を減らす試みをしている媒体も出てきているようだ。
メディアも読者もしっかりしてくれ〜、自分もしっかりしないとヤバいな〜と思う反面、本音を言うと、いかにウソをつかずに扇情的なタイトルをつけうるか━━そういう記事をコレクションする面白みのほうが多分に勝っていて、やはり見つけると嬉しくなる。