足をぶらぶらさせること

もうひとつの身長

ぼくの(リアルアバターの)身長はだいたい平均よりちょびっとだけ高いといった程度だが、ヴァーチャルな空間では130~140cm程度の低身長のアバターをよく使っている。といってもこの身長はVRChat内ではそんなに低いわけではなく、平均か、逆にちょっと高いかもな、というのが実感だ。高いほうにも低いほうにも、けっこうみんなリアルとはかなり異なる身長のアバターを用いているように思う。

22/7 計算中

22/7(ナナブンノニジュウニ)は秋元康がプロデュースする、11人からなるデジタルアイドルグループで、トラッキング用の専用スーツを装着したキャストをカメラで撮影し、モーション/フェイストラッキングでアニメ調のアイドル・キャラクターを動かしてダンス映像などを制作している。

イメージとしてはVtuberが近いが、資本力が強いのと、媒体によって「キャラクターとしての出演」と「キャストとしての出演」の両方をしているのが注目点(アニメやバラエティではアバター、ライブやラジオなどではキャスト)だ。

中でもバラエティ番組である22/7 計算中は、漫才コンビ三四郎をMCに、リアル人間(三四郎)とバーチャル人間(22/7キャスト)が同じ空間でトークをしているという奇妙な番組である。スタジオ外では身体のトラッキングは難しいのでフェイストラッキングだけになるが、街ロケもバンバンしている。

Image
奇妙な空間

番組の最後には毎回「本日の収録の模様」として、トラッキングしてアバターや背景をかぶせる前の撮影の様子がエンドクレジットの間流される。
Image
リアルのスタジオはもちろんグリーンバック

さて、22/7のメンバー、戸田ジュンは最年少かつ身長も最も低く、元気でいつも楽しげに空中で足をブラブラさせているのが印象的なキャラクターだ。

Image
戸田(右)の足が地面についていないのが見える

Image
対応する収録風景

収録風景の様子を見ると、戸田ジュン役・海乃るりの椅子だけ他のキャストより10~15cm程度高いのが観察できる(上の引きの構図では、椅子の下に木箱をかませているのが見える)。これは健康上の理由であるとか、トラッカーがカメラに映るように配慮した結果こうなった、というわけではない。

海乃さん演じる戸田ジュンは身長が低いので、スタジオのカウンターチェアに座る際は足をブラブラさせていますよね。実際の収録中、長身の海乃さんが足をブラブラできるように、イスを台の上に乗せて高さを調節していると知った時は驚きました。
海乃「スタッフさんから『足ブラブラ』と指示をいただいて、スタジオでも私が足をブラブラできるように、床からメジャーできちんと測ってイスの高さを決めてくださったんです。そこまでこだわっていただいて、本当にありがたいなって思います」

hominis.media

どうやら足をブラブラさせるだけのために椅子を高くしているらしいのだ。
戸田ジュンのキャスト、海乃るりの公表身長は167cmで、キャラクターと逆にキャストメンバー中では最も高く、座面が高くないととても足をぶらぶらさせることができないのであった。

撮影時にはキャストは同じ高さにいないけれど、MRの放映映像を作るときはトラッキングした動きを縦方向に縮小した後、z軸方向に平行移動することで他のメンバーと「同じ空間」に座っているのである。コロナが流行っている時分、横方向でも同じことをやったら画としてはキャラクターを近くに配置できるよな、などとも考えた。

足をぶらぶらさせること

VRChat内では他の物理的なものとのインタラクションがなくて、高身長・低身長アバターといっても基本的にはそのまま身体イメージが相似拡大/縮小されるだけなので意識したことがなかったが、実は身長の違いには相似変形だけではない質的な違いがあったのだな、と思う。

そういえば子どもの視点になったらドアノブが高すぎて触れられないよな、とか、身長が平均よりかなり高い人になるとドアをくぐるとき結構かがんでるな、あれってVRでも同じことやっちゃうのかな、とか。

今では身長ものびてたいてい地面に足がつくようになったけど、ということはぼくもいつの間にか足をぶらぶらさせなくなったんだな、とふと思って、座っていたトレドチェアー(イカした木の椅子)を三段上げてみた。牛丼屋のカウンターチェアーのような絶妙な座りにくさになった。