ダジャレ全部言う(1) 500ダジャレ/秒

ダジャレをやめる

あらかじめすべてのダジャレを言ってしまえば言うものがなくなるので、ダジャレをやめられると思う。

人間の力では大変なので、機械的にやる。

辞書

いきなりダジャレ全部言うのはなかなか難しいので、とりあえずステップ(1)として、単語レベルでまったく同じ音の、同音異義語ダジャレを全部言う。

まずは、オープンに公開されている辞書をダウンロードしてくる。 国立国語研究所が作った語種辞書『かたりぐさ』という辞書データがあって、

語種辞書『かたりぐさ』 - 言語データベースとソフトウェア

91320個の単語が登録されているらしい。一般的な大人が知ってる語彙が50000とか聞いたことがある気がするので、たぶん十分だと思う。

たとえばこの辞書で「帰る」という単語を調べると

帰る カエル 動詞-自立 五段・ラ行 和

と教えてくれる。左から「単語」「読み」「品詞」「活用」「和語・漢語・外国語・混成語の区分」の順。

語の区分違いダジャレ

外国語と和語で「カラメル」と「絡める」のように、「和語・漢語・外国語・混成語のどれか」の区分が違えば違う語源だろうし、音が同じで区分が違えばだいたいダジャレになると思う。二文字かぶり程度でダジャレとか言ってたら生活できないので、三文字以上の単語に限定して調べる。

同区分別品詞ダジャレ

上の四つの区分では同じグループに属していてもダジャレになる事例はあるはずで、たとえばこの辞書で「和語」でありかつ読みが「カエル」の単語を検索してみると、

かえる カエル 動詞-自立 一段 和
かえる カエル 動詞-自立 五段・ラ行 和
カエる カエル 動詞-自立 五段・ラ行 和
カエル カエル 名詞-一般 NaN 和
換える カエル 動詞-自立 一段 和
還る カエル 動詞-自立 五段・ラ行 和
帰る カエル 動詞-自立 五段・ラ行 和
飼える カエル 動詞-自立 一段 和
替える カエル 動詞-自立 一段 和
代える カエル 動詞-自立 一段 和
買える カエル 動詞-自立 一段 和
変える カエル 動詞-自立 一段 和
返る カエル 動詞-自立 五段・ラ行 和
孵る カエル 動詞-自立 五段・ラ行 和

というように候補がいっぱい出てくる。
同じ品詞の言葉だと似た意味が多かったり組み合わせが難しかったりしてあんまりダジャレという感じがしない。
そこで、同じ区分の同じ品詞からは代表をひとつ選んでくることにする。
この例だと、たとえば

カエル カエル 名詞-一般 NaN 和
帰る カエル 動詞-自立 五段・ラ行 和

だけを引っ張ってきて、ダジャレと思うことにする。

ダジャレ発見フローチャート

① 同じ読みの単語を抽出
② 語の区分(和・漢・外・混)をチェック

  • 語の区分が違う→ダジャレ

  • 語の区分が同じ→③へ

③ 語の品詞をチェック

  • 品詞が違う→ダジャレ

  • 品詞が同じ→非ダジャレ

これでだいたいいいと思う。

実装

pythonのpandasのデータフレームで適当にやった。重複の検出はduplicateを使った。

出力結果の統計

まず区分が違う同音異義語の数。これらのペアはほとんど全部ダジャレにできそうなものだった。

語1の区分 語2の区分 区分の異なる単語ペア数
漢語 和語 158
漢語 外国語 75
漢語 混成語 107
和語 外国語 36
和語 混成語 36
外国語 混成語 9
421

次は同区分内で別品詞の同音異義語の数。

語の区分 品詞の異なる単語ペア数
漢語 149
和語 302
外国語 5
混成語 19
475

ところが、こちらでは

一番 イチバン 副詞-一般 NaN 漢
一番 イチバン 名詞-副詞可能 NaN 漢

のような「同じ意味で別品詞のペア」がほとんどで、上で出した「カエル」のような例はあまりないようだった。漢語・外国語・混成語ではダジャレっぽいものが皆無だったので、後につづく実例には載せていない。

二種類の合計でたぶん500ダジャレくらいはできたと思う。別の同音異義語とのペア入れたら2〜3000くらいかな? 出力には1秒かからなかった。

出力結果

外国語との組がわかりやすくていいと思う。

漢語・和語

フタツ, イカン, イコウ, イタイ, イタク, イトウ, ウツウツ, オンバ, カイイ, カクカク, カコウ, カタイ, カヨウ, カンカン, ガクガク, キソウ, キノウ, キュウキュウ, キョウ, キライ, コスイ, コブシ, サカン, サクイ, サソウ, サッキ, サバク, シカク, シゲイ, シゴク, ショウ, シント, シンボウ, ジマイ, セマイ, ソウコウ, ソウロウ, ソクバク, ソット, ソロウ, タカイ, ダクダク, チカイ, チカク, チョウト, チンチン, テイタイ, デント, トウサン, トクトク, トコウ, トドク, ドウカ, ドッカ, ドント, ナンカ, ナント, ニオウ, ネツイ, ハイル, バンバン, ヒッカク, ヒロウ, フウン, フカイ, フクム, ブンブン, ボウボウ, ボツボツ, マイコ, マドウ, ムサイ, ヤサイ, ヤトウ, ユエン, ヨウシ, ヨウヤク, ヨウヨウ, ヨクヨク, ヨソウ, ヨダツ, ワカイ, ワヤク, イチゴ, ウトウ, ウンカ, カイコ, カレイ, カンバ, ガリガリ, キュウリ, キンキン, ゴカイ, サクサク, シャケ, ズキン, セイゴ, ゾクゾク, ダイダイ, チシャ, ドカン, ドジョウ, ニシン, ヒガイ, フッコ, ホッケ, ミョウガ, ズイキ, カクシ, ウカイ, イエイ, カワラ, カッパ, ヒダイ, イアイ, イシキ, ショウト, ムカイ, ユウキ, シュウト, ムコウ, ミツギ, コウバイ, コウジ, コシキ, ミツゴ, コクソ, シマイ, コウシ, コガイ, イチマツ, カイバ, ナンジ, ハヤク, ホガイ, デキアイ, コウリ, コウタイ, ブカイ, マッコウ, イキガイ, オウギ, フクロ, シナイ, ソウズ, トウジ, ドウサ, ゴトク, アイロ, ケイロ, コマイ, メイロ, ヨウチ, ヤライ, ユウヒ, ハッパ, イオウ, ホウキ

漢語・外国語

アンド, トタン, フラン, アイゼン, アンカ, アンダ, アンチ, アンプ, インカ, インチ, インキ, エイト, エンジン, ボタン, カバン, カップ, カッパ, カンパ, ゴング, クロウ, コイン, コウチン, コック, サタン, ザイン, サイド, サッシ, サンチ, サンバ, シアン, シック, シャイ, ジャッキ, ショウ, シンパ, シンク, シンポ, センチ, センス, セント, ソウダ, タイト, タイヤ, ダイス, ダッシュ, タンゴ, タンニン, タンク, チンキ, テンポ, トライ, ハイク, バイバイ, ホック, バッケン, ヒップ, ベット, マシン, マンガン, バンプ, マント, ミンチ, メイド, メイク, メンバ, ヨウド, リネン, リッチ, リンチ, リンカ, レンチ, ロップ, ワゴン, テント, レンジ

漢語・混成語

エイゴ, イイキ, カイショウ, カクイ, キオウ, キサク, クドク, サヨウ, ショウガ, シヨウ, シンコ, センナイ, タンボ, トキン, イガイ, カンパン, キンコ, サヘン, ジュンコ, ハチク, ハラン, ミショウ, ランスウ, アンジ, エンタク, ヤゴウ, ナントウ, ナンヤク, エイリ, カイヘン, カンス, カンジ, キュウバ, キョウマイ, キョウギ, ゲイコ, オンコウ, オンシャ, オショク, オンタイ, オンチ, オンテン, アイイン, アイエン, アイショウ, コウヤ, サッシ, サンピン, サンギ, コブン, カヨウ, ハイシャ, シチヤ, テッコウ, コショウ, コテイ, コモン, ジョウアイ, シンギ, シンメ, シンミ, ニオウモン, ショウアイ, ショウミ, キッスイ, キップ, ゼンバ, アイセキ, ソッコウ, ソクイ, タイロ, ダイギ, ダイス, ハヤク, ダンチ, ジアイ, ジツボ, ムシケン, チョウバ, チョウアイ, ツウジ, トウガ, トウヤ, ドウユウ, ドウギ, カイキ, カイドク, ハイチョウ, ホチュウ, ホウソ, ホンバ, メンボウ, キブツ, キヘン, メイシャ, ユウカン, ユウケイ, ユウコク, ユウショク, ユウハン, ヨウス, ヨウビ, ヨウマ, オチド, ランマ, リョウサン, ロウヤ

和語・外国語

ピーピー, イクラ, オイル, カタル, カット, カラット, カラム, カラメル, キセル, キチン, キット, クラス, クワス, コレラ, シャベル, ショウ, ジャー, タオル, タスク, テラス, ドット, ニット, バラス, バレル, パット, ピント, フラット, ホット, ホテル, ポット, マイル, メイル, メモリ, ヨーク, カッパ, チャウ

和語・混成語

カスル, コスル, トックリ, マキエ, ユスル, シラス, オシエ, カクス, ヒガシ, マダイ, キドリ, キサキ, キグミ, キツケ, キオイ, ケガキ, カタギ, コグチ, コダテ, ツナグ, カヨウ, ミズエ, アトシキ, ハヤク, チノリ, ソエジ, ドモリ, ハタチ, ヒイロ, フタメ, フジミ, フイリ, ミセル, キチン, ユドオシ, ヨクスル

外国語・混成語

ダブル, ハッスル, リント, アイス, キッス, サッシ, ダイス, メンス, キチン

ここから先は品詞違いのやつ。漢語と混成語は副詞や連体詞と名詞との一致、外国語はたぶん名詞かつ接頭辞みたいなのしか拾っていなかった。割合は低いが「カエル」「カラス」「イカン」「カシラ」「ムシロ」など、ちゃんと意味が違う品詞をイメージできる言葉があるのが見える。

和語

アタフタ, アナガチ, アマタ, アマリ, アリノママ, アレレ, アンナニ, アンマリ, イカガ, イカサマ, イカン, イズレ, イマドキ, イライラ, イロイロ, ウカウカ, ウッカリ, ウロウロ, ウンザリ, ウント, オナジ, オナジク, オノオノ, オヨソ, オヨソ, オヨビ, オンナジ, オヨビ, オハヨウ, オツカレサマ, カカル, カサカサ, カシラ, カチカチ, カチン, カラカラ, カラッキシ, ガサガサ, ガタガタ, ガックリ, ガラガラ, キタル, キョロキョロ, ギクシャク, ギュウギュウ, ギリギリ, クヨクヨ, クライ, クリクリ, グジャグジャ, グチャグチャ, グニャグニャ, グリグリ, グルリ, ケレド, ケレドモ, ココラ, コザッパリ, コックリ, コノホド, コンナ, コンナニ, ゴタゴタ, サラニ, シカシナガラ, シタタカ, シックリ, シットリ, シバラク, ショボショボ, ションボリ, シンミリ, ジャア, ジャア, ジャァ, スカスカ, スッキリ, スナワチ, ソウデスネ, ソコソコ, ソコラ, ソックリ, ソノウエ, ソノウチ, ソノタメ, ソノママ, ソモソモ, ソモソモ, ソレダケニ, ソレナリ, ソンナ, ゾッコン, タカダカ, タカダカ, タシカ, タダイマ, タッテ, タップリ, ダッテ, ダブダブ, チョット, ツイデ, ツイデ, ツトメテ, ツマリ, ツマリ, テカテカ, テラテラ, テンヤワンヤ, トコトン, トコロドコロ, トモスレバ, トモドモ, トモニ, トリワケ, トントン, ドウゾ, ドウモ, ドコロカ, ドッカ, ドンナ, ナアニ, ナカナカ, ナカンズク, ナンカ, ナンテ, ナント, ナンノソノ, ナンボ, ノビノビ, ノンビリ, ハルカ, バラバラ, ヒトタビ, ヒトマズ, ヒトリ, ヒョット, ビショビショ, ピッタリ, フックラ, フニャフニャ, ブツクサ, ブツブツ, ブヨブヨ, プカプカ, ヘナヘナ, ペコペコ, ホット, ホレボレ, ボロボロ, ボンヤリ, ポツポツ, ポロポロ, マゴマゴ, マシテヤ, マッスグ, ママナラナイ, マルマル, マルマル, ミズカラ, ムシロ, モシカ, モジャモジャ, モットモ, モットモ, モノノ, モヤモヤ, ヤットコ, ユクユク, ヨッポド, ヨワイ, ワンワン, アオイ, イカル, イキイキ, イトド, イヤー, カエル, カラス, ガクガク, ガバガバ, ギシギシ, ギスギス, クシャクシャ, ゴロゴロ, シノブ, ジワジワ, スイスイ, スガル, スレスレ, ズタズタ, タラフク, ドカン, ドキドキ, ニコニコ, ノビル, フトイ, ヨロシク, クライ, ヒトシオ, ヒトツカミ, ヒトアジ, ヒトメ, トオク, クダリ, ナントカ, ナニモカモ, ナニヨリ, ナンラ, ナニサマ, イエイエ, オオムネ, ワリアイ, イワバ, イクバク, イクラ, イクタ, イソギ, サカイ, ワズカ, チカイ, チカク, チカゴロ, クリカエシ, イヤイヤ, モトモト, ムコウ, サイワイ, ヒロビロ, イマゴロ, イマサラ, イマヒトツ, ネコソギ, イササカ, コヤス, オモイ, オモイキリ, オモイナシ, サシテ, ニヨリ, モチキリ, トキドキ, トキオリ, ツギツギ, ツギニ, ニツケ, トリアエズ, テアライ, ノロイ, ムネト, ケダシ, オモニ, ウマイ, スコシ, ノボリ, ツネヅネ, イロコイ, フルイ, イキオイ, アイニク, アオアオ, オリオリ, サキホド, アライ, アライザライ, アラカタ, ハヤク, アイカワラズ, オオク, オオカタ, オオヨソ, ナカス, ナガイ, オッテ, オッテ, ホドホド, ドロドロ, ツレヅレ, ヒゴロ, イレカワリタチカワリ, ゴトシ, イカホド, トシゴロ, スナワチ, シラス, オオイ, トビキリ, ウキウキ, ナミナミ, カタヤ, ホトンド, オヨソ, ソゾロ, マダキ, ポックリ, マノアタリ, ヨドオシ, タチマチ, サスガ, ヒヤヒヤ, タトエ, ホシイ

ダジャレがだいぶ嫌いになれてよかった。

ゲームにおける「選択肢」と時間

ゲームと「選択肢」

一般的な小説や映画が一本道のストーリーを辿るのとは違って、ゲームには道筋やゴールが複数あるもの(マルチエンディング)が数多く存在する。有名なのはドラゴンクエスト1(FC版)だろうか。ラスボスである竜王の居城にたどりついた主人公に、竜王から次のような提案が持ちかけられる。

よくきた (主人公)よ。 わしが おうのなかの おう りゅうおうだ。
わしは まっておった。 そなたのような わかものが あらわれることを…
もし わしの みかたになれば せかいの はんぶんを (主人公)に やろう。
どうじゃ? わしの みかたに なるか?

この提案に「いいえ」と答えるとラストバトルに突入するが、「はい」と答えると

では せかいの はんぶん やみのせかいを あたえよう!

に続くメッセージの後、画面が暗転して一切の操作が不可能になる。

ドラゴンクエスト1には、竜王を倒して到達するエンドと、やみのせかいに閉じ込められるエンド、いわゆる「グッドエンド」と「バッドエンド」があるわけで、こういった複数のエンドやルートを分岐させる起点となるのが、この「はい/いいえ」といった選択肢である。

選択肢の順向性

選択によって変わるのはふつう選択後の未来であって、基本的に「いま」何を選択しようが過去の履歴が変化することはない。これを仮に選択肢の順向性と呼ぶことにしよう。
現実における選択はすべて順向的であると言ってよさそうである。
ゲームにおいてもほとんどの選択肢は順向的であるが、中には故意か故意でないか、過去に遡及的に作用する逆向性の選択肢が存在する。次の画像を見てみよう。

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ゲーム画面より引用。

これはアイドルマスターミリオンライブ! シアターデイズのスクリーンショットである。アイドルの北沢志保が書店で絵本作家とトークショーをする、という内容のイベントで、「プロデューサーは作家の先生の本を読んできたか」との問いに対する回答として三つの選択肢が提示される。

  • もちろん全部読んだ

  • 一冊だけ読んだ

  • 俺の書いた絵本を読んでくれ!

最後の選択肢は措くとして、前ふたつの「全部読んだ」と「一冊だけ読んだ」は両立し得ないものだ。これらの選択肢を選んだ後の展開は、

  • もちろん全部読んだ→「もちろん、全部読んできたよ。トーク中に志保が困っても、助けられるようにな!」

  • 一冊だけ読んだ→「その……時間がなくて……一冊だけ……」

となっており、このプロデューサーがとんでもない大ウソつきでないなら、この選択肢から何を選んだかによって遡及的に過去が決定された、ということになる。

こうした選択肢は決して珍しいものではない。たとえば「後ろから声をかけられた。この声は……」に続く選択肢として「Aだ」「Bだ」が示され、選択後「A/Bの選択した方」との会話がはじまる、というような構造をいくつかの作品で見た気がするが、この場合も「後ろから声をかけてきたのが誰だったか」という過去が遡及的に生成されている。

先ほど示したドラゴンクエスト1は、FC版では竜王の「世界の半分をやろう」に対して「はい」を選ぶとゲームオーバーになっていたのが、SFC版からは暗転後に宿屋で目覚めるという「夢オチ」に改変された。これも「はい」を選ぶか「いいえ」を選ぶかによって「竜王との会話が夢か現実か」が遡及的に決定される、逆向性の選択肢である。(竜王を倒す方のエンドも夢だと考えると、一応の整合性はつくけどかなしいね)

特に根拠なくこの手の選択肢が現れると、因果的にそれはおかしいんじゃないの? とモヤモヤしてしまう。

逆向性の利用

逆向性の選択肢を演出として利用した作品が少ないながらあって、こういった異常な性質の選択肢が異常な状況を表現するのに一躍買っている。
この構造が巧みに用いられているのが、「Never7」である。(「Remember11」でも類似の演出が試みられている)。

Never7は2000年にKIDから発売されたアドベンチャーゲームで、離島での大学のゼミ合宿を舞台に、主人公に奇妙な出来事(デジャヴや未来視の類)が次々と降りかかる。うまくやらないと7日目を迎えることなく死んでしまうので「Never7」というタイトルがついている。

Never7」では、逆向性の選択肢のもつ演出効果の可能性として、2つの方法を示した。

ひとつは「ドッキリが行われている」ことの演出。 「今日の夕食が何か」を主人公が予想するという展開があって、「カレー」「肉じゃが」「シチュー」といった選択肢が提示されるのだが、何を選択しても「それを作るつもりだったけど、何でわかったの?」というレスポンスが帰ってくる。
この逆向性は「登場人物は何を予想されても「それを作るつもりだったけど、何でわかったの?」と返すドッキリをしていた」という解釈によって解けるわけである。

もうひとつが「世界が異常である」ことの演出。
主人公の思考が(遡及的に)世界に影響を及ぼしてしまうような物語であれば、「選択によって過去の世界が書き換わった」ことの演出として逆向性の選択肢を利用できるのである。

『Ever17』と『デイグラシアの羅針盤』

両作品の概要

『デイグラシアの羅針盤』は2015年に同人サークル「カタリスト」から発売されたWindows向けノベルゲームである。

内容を簡単に説明すると、序盤で主人公たちは海底で故障した潜水艇「SHEEPIII」に閉じ込められ、何とかサバイバルしながら救助を待つ、という感じで、その中で更なるアクシデントに見舞われたり、隠された真実が明らかになったりする。
作品外の話として少し他と毛色の違うことといえば、同人ならではと言えようか、カタリストが公式に『デイグラシアの羅針盤』は『Ever17 -the out of infinity-』のオマージュである、という旨の発言をしていることだ。

Ever17

ここで、オマージュ元の『Ever17 -the out of infinity-』(以下、Ever17)について簡単に紹介・おさらいしておこう。

Ever17というのは2002年にKIDから発売されたドリームキャストPS2向けのSFアドベンチャーゲームである。

物語の舞台は2017年、海中に建設された巨大水族館「LeMU」。
序盤でこの海中水族館に浸水事故が発生し、中に閉じ込められた主人公は地上との出入りが封じられてしまう。大筋は施設に残された人々と協力しながら主人公たち何とかサバイバルしながら救助を待つ、という感じで、その中で更なるアクシデントに見舞われたり、隠された真実が明らかになったりする。どこかで聞いたような話ですね。

このEver17、妙に設定が緻密で、たとえばレーザーで網膜に像を投射するRID(網膜走査ディスプレイ)が使われていたり、LeMUは飽和潜水方式(LeMUは海中にあるのだが、施設内の気圧を外の水圧と同程度にすることで強度を保っている)だったり、その気圧を高めるためにヘリウムを使っていたり(高分圧の酸素は有毒だし、高分圧の窒素は「窒素酔い」を引き起こすため)する。かつ、それらの小道具はガワだけのものではなく、過不足なく展開され、見事な手際で回収される。これには偏屈なSFオタクもニンマリするだろうことを保証する。

もちろん先に述べたものもこのゲームの大きな魅力であるが、Ever17に最も特徴的なのは物語の「視点」だろう。Ever17には序盤に選択肢

  • 「俺は——」

  • 「僕は——」

からどちらかを選ぶ、という象徴的なイベントがあり、このイベントの後、LeMU浸水事故はそこで選んだ視点「俺(倉成武)」または「僕(少年(記憶喪失で、名前がわからない))」で語られる、という構成になっている。
二つの視点は相互補完的のようで微妙に異なるものでもあり、両方の視点から事故を追ううちに物語の真相が明らかになっていく。

作品の緻密な設定やノベルゲームならではの大仕掛けなど、Ever17の評価は非常に高く、完全版・移植・翻訳・リメイクと数多くのバージョンが発売された。
一時はPSNでのダウンロード販売や、iOSAndroidでもプレイできる状態だったが、残念ながら開発元のKIDが倒産、ライセンスを受け継いだサイバーフロントも解散してしまい、今ではプレイできる環境はかなり限られてしまっている。
現在はMAGES.(志倉千代丸が会長を務める会社)がライセンスを管理しており、Windows版をMaginodriveのDL販売で買うのが楽で安い。ゲームとしてはかなりの大ボリュームで多少冗長と思える部分もあるが、間違いなく傑作である。ぜひともプレイをお勧めする。
http://maginodrive.jp/item/MGS013.html

デイグラシアの羅針盤

さて、本題の『デイグラシアの羅針盤』だが、Youtubeに文字がいっぱい出てくる予告編があるのでキーワードを見てみよう。
https://www.youtube.com/watch?v=CuYPmsPx2p4
f:id:xcloche:20171031001006p:plain
オープニング映像より。ワクワクしますね。これらのキーワードにピンときたらすぐ買おう。

潜水関連の話でえらくマニアックだったEver17と比べて、デイグラシアの羅針盤は生物(主に進化論)の話の比重が大きい。

Ever17との主な類似点(オマージュしたと思われる点)をあげるとすれば、表層的な部分としては

  • 海中の施設に数人の男女が閉じ込められ、通信途絶した状況でサバイバルする

  • 施設側が何らかの隠し事をしている

  • 病気が関係してくる

また、小ネタとしては

  • タツタサンド(Ever17では施設内にタツタサンド屋台が残されていたため、タツタサンドをやたら食べる。デイグラシアでも食べ物の話になったとき「タツタサンド」が出てくる)

  • 着ぐるみ(Ever17ではキツネザル「みゅみゅーん」、デイグラシアではマスコット「シロナガスペンギン」)

  • 暗闇での鬼ごっこ

といったところだろうか。
また、Ever17の「視点」を軸にした物語の構造とは大きく異なるものの、序盤に出てくる印象的な選択肢は「俺は——」「僕は——」と同様な強烈なものが提示される。

『デイグラシアの羅針盤』の最初の選択肢は、「主人公の氏名」を入力するものだ。

道具立てはかなり近いものの、展開されるシナリオは全然別かつEver17へのリスペクトが垣間見えるもので、遜色ないといっていい出来の傑作である。

次回はネタバレでいろいろ考えてみた記事を書く。

http://www.digiket.com/work/show/_data/ID=ITM0121587/
ここで売ってる。Amazonの業者は正規ではない転売業者とのこと。DL版を買って売り上げに貢献し、新作を作ってもらおう。