『Ever17』と『デイグラシアの羅針盤』

両作品の概要

『デイグラシアの羅針盤』は2015年に同人サークル「カタリスト」から発売されたWindows向けノベルゲームである。

内容を簡単に説明すると、序盤で主人公たちは海底で故障した潜水艇「SHEEPIII」に閉じ込められ、何とかサバイバルしながら救助を待つ、という感じで、その中で更なるアクシデントに見舞われたり、隠された真実が明らかになったりする。
作品外の話として少し他と毛色の違うことといえば、同人ならではと言えようか、カタリストが公式に『デイグラシアの羅針盤』は『Ever17 -the out of infinity-』のオマージュである、という旨の発言をしていることだ。

Ever17

ここで、オマージュ元の『Ever17 -the out of infinity-』(以下、Ever17)について簡単に紹介・おさらいしておこう。

Ever17というのは2002年にKIDから発売されたドリームキャストPS2向けのSFアドベンチャーゲームである。

物語の舞台は2017年、海中に建設された巨大水族館「LeMU」。
序盤でこの海中水族館に浸水事故が発生し、中に閉じ込められた主人公は地上との出入りが封じられてしまう。大筋は施設に残された人々と協力しながら主人公たち何とかサバイバルしながら救助を待つ、という感じで、その中で更なるアクシデントに見舞われたり、隠された真実が明らかになったりする。どこかで聞いたような話ですね。

このEver17、妙に設定が緻密で、たとえばレーザーで網膜に像を投射するRID(網膜走査ディスプレイ)が使われていたり、LeMUは飽和潜水方式(LeMUは海中にあるのだが、施設内の気圧を外の水圧と同程度にすることで強度を保っている)だったり、その気圧を高めるためにヘリウムを使っていたり(高分圧の酸素は有毒だし、高分圧の窒素は「窒素酔い」を引き起こすため)する。かつ、それらの小道具はガワだけのものではなく、過不足なく展開され、見事な手際で回収される。これには偏屈なSFオタクもニンマリするだろうことを保証する。

もちろん先に述べたものもこのゲームの大きな魅力であるが、Ever17に最も特徴的なのは物語の「視点」だろう。Ever17には序盤に選択肢

  • 「俺は——」

  • 「僕は——」

からどちらかを選ぶ、という象徴的なイベントがあり、このイベントの後、LeMU浸水事故はそこで選んだ視点「俺(倉成武)」または「僕(少年(記憶喪失で、名前がわからない))」で語られる、という構成になっている。
二つの視点は相互補完的のようで微妙に異なるものでもあり、両方の視点から事故を追ううちに物語の真相が明らかになっていく。

作品の緻密な設定やノベルゲームならではの大仕掛けなど、Ever17の評価は非常に高く、完全版・移植・翻訳・リメイクと数多くのバージョンが発売された。
一時はPSNでのダウンロード販売や、iOSAndroidでもプレイできる状態だったが、残念ながら開発元のKIDが倒産、ライセンスを受け継いだサイバーフロントも解散してしまい、今ではプレイできる環境はかなり限られてしまっている。
現在はMAGES.(志倉千代丸が会長を務める会社)がライセンスを管理しており、Windows版をMaginodriveのDL販売で買うのが楽で安い。ゲームとしてはかなりの大ボリュームで多少冗長と思える部分もあるが、間違いなく傑作である。ぜひともプレイをお勧めする。
http://maginodrive.jp/item/MGS013.html

デイグラシアの羅針盤

さて、本題の『デイグラシアの羅針盤』だが、Youtubeに文字がいっぱい出てくる予告編があるのでキーワードを見てみよう。
https://www.youtube.com/watch?v=CuYPmsPx2p4
f:id:xcloche:20171031001006p:plain
オープニング映像より。ワクワクしますね。これらのキーワードにピンときたらすぐ買おう。

潜水関連の話でえらくマニアックだったEver17と比べて、デイグラシアの羅針盤は生物(主に進化論)の話の比重が大きい。

Ever17との主な類似点(オマージュしたと思われる点)をあげるとすれば、表層的な部分としては

  • 海中の施設に数人の男女が閉じ込められ、通信途絶した状況でサバイバルする

  • 施設側が何らかの隠し事をしている

  • 病気が関係してくる

また、小ネタとしては

  • タツタサンド(Ever17では施設内にタツタサンド屋台が残されていたため、タツタサンドをやたら食べる。デイグラシアでも食べ物の話になったとき「タツタサンド」が出てくる)

  • 着ぐるみ(Ever17ではキツネザル「みゅみゅーん」、デイグラシアではマスコット「シロナガスペンギン」)

  • 暗闇での鬼ごっこ

といったところだろうか。
また、Ever17の「視点」を軸にした物語の構造とは大きく異なるものの、序盤に出てくる印象的な選択肢は「俺は——」「僕は——」と同様な強烈なものが提示される。

『デイグラシアの羅針盤』の最初の選択肢は、「主人公の氏名」を入力するものだ。

道具立てはかなり近いものの、展開されるシナリオは全然別かつEver17へのリスペクトが垣間見えるもので、遜色ないといっていい出来の傑作である。

次回はネタバレでいろいろ考えてみた記事を書く。

http://www.digiket.com/work/show/_data/ID=ITM0121587/
ここで売ってる。Amazonの業者は正規ではない転売業者とのこと。DL版を買って売り上げに貢献し、新作を作ってもらおう。