継承と反復の物語・「けものフレンズ」の三つの旅

けものフレンズ」に関する重大なネタバレを含みます。未履修の方はブラウザバックを強く推奨します。

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けものフレンズ」の中には三つの旅がある。

メインストーリーである「〈かばん〉とサーバルとボスの旅」、それを追いかける「アライグマとフェネックの旅」、そしてとうの昔に終わってしまった「ミライとサーバル(先代)とラッキーの旅」だ。

三つの旅に共通するアイテムのひとつが〈帽子〉〈羽根飾り〉である。これらはストーリーにおいて重要な役割を果たすと同時に、「けものフレンズ」という物語の構造を表象するものになっている。これらのものに注目しながら、三つの旅の足跡を追ってみよう。

本稿では、まず時系列に沿って
①ミライとサーバル(先代)とラッキーの旅
②〈かばん〉とサーバルとボスの旅
③アライグマとフェネックの旅
の順に旅の目的や概略を軽くおさらいした後、それぞれの旅の関係を論じ、「帽子と羽根飾り」や火、バスなどの道具立てがもつ象徴的な意味について考える。

①ミライとサーバル(先代)とラッキーの旅

帽子と羽根飾り:ミライが〈緑色の羽根飾り〉と〈赤色の羽根飾り〉の両方がついた〈帽子〉をかぶっている。
旅の目的:サンドスターの調査、パークの危機への対処

パークガイドのミライがサーバル(先代)、ラッキーとともに、「パークの危機」に立ち向かう旅。

最終話の観覧車のシーンで、ミライたち人間はセルリアンによるパークの危機への対処をあきらめて島外へ避難したことがわかる。
また、このシーンに

ミライ「ラッキー、留守をよろしくね」
ラッキー「マカセテ」

のやりとりがあり、この旅の記録者としてラッキービーストが随行しているらしいことがわかる。

旅の様子は作中で直接的に描写されることはなく、〈かばん〉たちが記録された場所にきたときにボスが再生する映像、という形をとっている。

②〈かばん〉とサーバルとボスの旅

帽子と羽根飾り:〈かばん〉が〈緑色の羽根飾り〉のついた〈帽子〉をかぶっている。第11話でアライさん一行から〈赤色の羽根飾り〉を受け取る。
旅の目的(前半):〈かばん〉が何の動物が調べるため。
旅の目的(後半):〈ヒトのなわばり〉をさがすため。

バンナでめざめた〈かばん〉がサーバルとともに自分の正体を明らかにするため図書館をめざす物語前半の旅と、自分がヒトであると知った〈かばん〉が自分の居場所である〈ヒトのなわばり〉をさがす物語後半の旅。
物語の本編。

③アライグマとフェネックの旅

帽子と羽根飾り:アライさんが〈赤色の羽根飾り〉を持っている。第11話で〈かばん〉に〈赤色の羽根飾り〉を渡す。
旅の目的:「帽子泥棒」をつかまえて帽子をとりかえすため。

バンナでアライさんが見つけた帽子を持って行った「帽子泥棒」をつかまえるための旅。前の二つの旅とちがってメンバーにヒトがおらず、フレンズのみで構成されている。

序盤ではED後のCパートなどでよく登場していたのが、後半になるにつれてAパートとBパートの間に入ったり、一回に二度登場したりするなど、〈かばん〉たちに近づきつつあることが番組の構成によっても暗示されている。

①→②の相似

〈かばん〉たちの旅はミライたちの旅によく相似している。

まずはメンバーについてみてみよう。

〈かばん〉はミライの髪の毛がサンドスターをうけて誕生したものである。
サーバルについては、第10話のロッジでサーバル(先代)の映像を見たときの反応
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「あれ、あれ……あれ、おかしいな、早起きしたからかな」

から、先代のサーバルが一度セルリアンに食べられて動物にもどった後、ふたたびサンドスターをうけてフレンズ化したものであると推測される。
ラッキービーストには複数個体が存在するが、最終話の描写をみると記録をすべて共有しているのではないようである。ミライたちの旅における「ラッキー」とボスは同一個体と考えてよいだろう。

このように、メンバーのそれぞれについてミライたちの旅から〈かばん〉の旅への連続性が存在する。

また、旅路についても、ボスはミライが映像を記録した場所にきたときに映像の再生をしていることを考えれば、〈かばん〉たちの辿った道筋は、どうやらミライたちのそれを反復していることがわかる。

そして、ミライの旅からその相似である〈かばん〉の旅への継承が、最終話の観覧車でミライの帽子が風に飛ばされることで行われる。
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注目したいのは、ミライたちの旅はパークからの避難というある種の失敗の旅であるということだ。「けものフレンズ」はある意味で、失敗の物語を継承した〈かばん〉たちが同じ旅路をすすんで、昔とは違った新たな結末を模索する、という構図をとっている。

②→③〈かばん〉たちの旅の視察団・アライグマとフェネック

アライグマたちは帽子をかぶった〈かばん〉を追いかけるルートをたどっており、結果的に、橋や高山のカフェ、平原、図書館などでのできごとをひとつひとつ確認することになる。やはりここでも旅の道筋は反復される。
これはいわば〈かばん〉の行動が本来の住民たるフレンズのみの視察団によって検分されるという構図であり、第11話での合流をもって、彼らは〈かばん〉のこれまでの行動に承認を与える。この承認は〈赤い羽根飾り〉の受け渡しによって象徴される。

ふたたび①→②の継承

帽子は〈赤い羽根飾り〉がもどって本来の形を取り戻すが、しかし、これがすぐに〈かばん〉の頭の上にもどることにはならない。
アライグマから返却された帽子はそれからしばらくボスの頭の上にのせられている。ふたたび〈かばん〉が帽子を戴くことになるのが、サンドスターが火山からあふれだす次のシーンである。

ボス「非常事態デス。タダチニ避難シテクダサイ」
かばん「ラッキーさん、今はそんな場合じゃあ」
ボス「ダメデス。オ客様ノ安全ヲ守ルノガ、パークガイドロボットノボクノ務メデス。タダチニ避難シテクダサイ。ココカラノ最短……」
かばん「ラッキーさん、ぼくはお客さんじゃないよ。ここまでみんなに、すごくすごく助けてもらったんです。パークに何かおきてるなら、みんなのためにできることを、(ボスの頭からとった帽子をかぶる)したい」
ボス「ワカッタヨ、カバン。危ナクナッタラ、必ズ逃ゲテネ」
ボス「カバンヲ、暫定パークガイドニ設定。権限ヲ付与」

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〈かばん〉たちの旅がミライたちの旅と相似であることは先ほど述べたが、ボスだけは両方の旅にまったく同じ個体が参加している。
ボスに載せられていた帽子をかぶることは、ミライからボスへと継承された「留守をよろしくね」を今度は〈かばん〉が引き継いだことの表象に他ならない。手続き上においてもボスによって〈かばん〉は「暫定パークガイドに設定」され、ミライからボスを経由した〈かばん〉への継承は完全なものとなる。

f:id:xcloche:20170425212252p:plain ボスの瞳にうつる「パークガイド」

帽子と二つの羽根飾りが揃った〈かばん〉は、ミライの意思を継ぎ、フレンズたちに承認され、ボスによる認証をうけて、パークガイドとしての性質を得ることになる。ここに三つの旅は合流する。

火のリレー

さて、旅同士のインタラクションはおいて、〈かばん〉たちの旅の道連れである、〈かばん〉、サーバル、ボスの関係にも着目してみよう。 ここにも強力な継承の構図がある。それが第11話から第12話にかけての火のリレーである。
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溶岩のセルリアンとの戦いで、〈かばん〉が松明をかかげて敵を引きつけることになる。松明をかかげる、という行為はさまざまなことを象徴する。自由の女神を想像した人も多いのではないだろうか。しかし、ここで考えるべきはそれよりも、聖火のリレーであろう。
第11話で松明に掲げられた後、次に火が出てくるのはサーバルが投げた火のついた紙飛行機である。
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そして、この紙飛行機が飛んでいく先は、ボスが乗る燃えさかる船だ。 f:id:xcloche:20170425212245p:plain

〈かばん〉からサーバル、ボスへと希望の火はリレーされ、強大な敵は打ち倒される。

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アンカーの朝日がのぼる

バスの旅

ここまで見てきた通り、「けものフレンズ」には無数の継承と反復の物語が折りたたまれているが、ここで、三つの旅をつなぐバスの話をして結びとしたい。

第2話で、〈かばん〉たちはバスの運転席と客席が川の両岸に離ればなれになって停められているのを発見する。
しかし、はじめに客席だけのバスを見たボスがフリーズしていたことからも、本来いっしょに運用されるこれら二つの車体が別々の場所にあるのは不自然である。

本編でこの二つの車体をわけて運用したのは、巨大なセルリアンをヘッドライトで誘導する作戦のときで、このときは機動力を得るためにわけたのであった。 溶岩のセルリアンは水につけると岩になって固まること、二つの車体を隔てた橋が落ちていることなどをあわせて考えると、ミライたちもセルリアンに対抗するために同じ理由でバスを切り離して運用し、橋を落として退治しようとしたのではないか、という仮説が立ち上がってくる。
最後は海に漕ぎ出すところまで含めて、①の旅と②の旅は何度も反復の構造をとるし、その内情は好対照をなしている。

また、バスを船にしたときも二つの車体は分かれることになる。最終回の〈かばん〉の船は運転席側のみで構成されている。後を追うサーバルの船の外見はジャパリバスの客車のものだが、本来これに動力はないはずである。この船を動かしているのは、駆動音と12.1話からして、どうも足こぎの「バスてき」のようだ。すると漕いでいるのはアライグマとフェネックに違いない。ここに、三つの物語の統合があり、やっぱりみんなで旅は続くし、海の向こうではきっと、ちょっと歳をとったミライさんの元気な姿を見ることができるだろう。
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