メディア依存コンテンツと、Vtuberのフロンティア

メディアとコンテンツ

 私はKindleiPadを持っていて、紙の書籍しかない・紙のほうが安い・電子版が出るのを待ちきれない・とにかく物理書籍がほしい〜!!! と思うとき以外はだいたい電子で本を買う。最終的な割合は半々くらいになる。

 これまでの記事でもいくつか書いてきたが、私には「メディアにあわせたおもしろい試みのコンテンツが見たい」という気持ちがあって、たとえば電子書籍だとハイパーリンクがいっぱい貼ってあったり、いつのまにか内容が変わっていたり、なんか動いたりするような異物がもっとあってもいいと常々思っている。

 漫画の場合、フリーで公開されている「有害無罪玩具」というのがいろいろと新奇な試みをしていて、舌を巻いた。これはおもしろい。

有害無罪玩具

 ただし、むやみやたらに「そのメディアでしかできないこと」をやったらいいかというと、もちろんそうではない。これはけものフレンズのBDについてた監督インタビューに書いていたことなのだけれど、3Dアニメーションで何かを作るとなったとき、2Dから来たクリエイターは必要以上にカメラを回したがる、とのこと。2Dではカメラが気軽に回せないから。特に意味もなくカメラが回るとすれば、たぶんそれはダサい。

 電子書籍メディアで文芸の新しい試みを見たい! にも、そういうダサさはついて回るように思う。新しいと思ったものが実は近い世界ではとっくにもっと高いレベルで発展・成熟したものだった、ということも多いだろう。たとえばパソコン/ゲームは電子書籍が一般的になるずっと以前からあったわけで、デジタル界独自の(テキスト的な)ストーリーテリングの手法は、インタラクティブ性や物語の構造という点において、アドベンチャーゲームに一日の長があるのは間違いない。

 かといって、既存メディアでやっていたことが新しいメディアで少し形をかえて再演されることに価値がないかというと当然そんなことはなくて、メディアを変えて花開く分野だって多いに違いない。

 そういったことは頭の片隅に置いたうえで、でもやっぱり、新しいメディアの特長をいかした演出というのはガンガンやってほしいし、ガンガン見たい。特に発展途上のメディアでは、そうした試みはそのメディアの可能性をグッと広げるポテンシャルがあるように感じられて、見ていてうれしくなる。なにより面白い。

 今回の記事では、Vtuberというメディアで、Vtuberにしかできない、Vtuberの可能性を広げるフロンティアをいくつか紹介したい。

Vtuberのフロンティア

 Vtuberの最前線を考えるため、実写Youtuberを参照点にしてみよう。両者の差違と、その特異性をコンテンツに昇華した動画/Vtuberを紹介していく。

①距離

 誰かをゲストに呼んでインタビューする企画を考えてみる。
 実写の場合はたいてい、実際にその人がいるところに行く・あるいはどこかに来てもらう、ということになる。 手間がかかるし、距離が離れていると困難でもある。
 VRの場合は「VR空間で待ち合わせ」すればいいだけなので、軽いフットワークでのインタビュー企画ができる。
 (実写の場合でも電話インタビューなら遠隔でも可能だが、「アバターが同じ空間にいる」感覚はむずかしい)

 というわけで、ひとつめの観点が「インタビュー・対談の手段としての可能性」である。
 これは各種Vtuberのいわゆるところの「コラボ動画」にも言えることで、気軽に同じ空間を共有できるのが特徴である。

本山らののバーチャルラノベ読書会 第1回
www.youtube.com

 上に挙げた動画は、ラノベ好きバーチャルYouTuber・本山らののチャンネルの生放送企画で、Vtuberがラノベ作家をゲストに招いた企画を行っている。

②仮面

 引き続き「インタビュー・対談の手段としての可能性」の話。
 実写でないのでゲスト側も顔出ししなくてよい。これは非常に大きな要素である。
 というのも「顔出ししなくてよい」というのは顔を隠したいだとか、そういう話をはるかにこえた気軽さを生み出すものなのだ。
 べつに撮影準備に部屋を片付ける必要もないし、化粧をしたり髭を剃ったりと身だしなみを整えなくてもいい。なんならパジャマでもいい。
 FaceRig が何もかもを覆い隠す完璧な仮面をつけてくれる。

③身体

 「新しい形のゲーム実況の可能性」の話。
 ふつうのゲーム実況では、プレイヤーとプレイアブルキャラクターは別ものである。
 たいていのゲームではこれは実写のYoutuberもVtuberも同じなのだが、一部VRゲームについては状況が変わってきている。

【Beat Saber】世界ランキング100位以内に入るまでやめません【おめシス卿の覚醒】
www.youtube.com

 こちらはバーチャル双子YouTuber、おめがシスターズの動画。普段から2人でかけあいながら様々な企画を行っている。Beat Saberは流れてくるノーツを剣で斬るという斬新なゲームで、VR用のコントローラーで実際に身体を動かしてプレイする。Modを入れることでVRChatのアバターが使用可能。

 「配信に使っている3Dモデルをそのまま使えるゲーム」の場合、ゲームによっては実況者とキャラクターは不可分になりうる。
 配信者その人がゲーム空間内にいるわけで、実写にはない奇妙な味がでてくる。

④オブジェクト

 VR空間では物体の創造が現実に比べてはるかに容易で、安価で、無制限である。
 「現実には不可能な物体を使った企画の可能性」の話。

第02回 バーチャル巨大幼女怪獣 大ピンチです!
www.youtube.com

 こちらはバーチャル巨大幼女怪獣、たいらんくんの動画。普段から人類のみなさんと不器用な交流をする動画をアップしている。ビルをたくさん作って踏みつぶして歩くこともできるし、ビームでなぎ払うこともできる。現実では、なかなかできない。

【08小隊】輝き撃ちは盾の上なのか3Dで検証してみた
www.youtube.com

 同じくおめがシスターズの動画。アニメのとあるカットを3Dで検証している。ガンダムを実際にいろいろ動かして配置を検討する。

VRアカデミア】建築家って何? ヴィジオネールって?
www.youtube.com

 今回の記事で、いちばんみなさんに見てほしい動画。半分以上、この動画をみてほしいという気持ちでこの記事を書いた。
 バーチャル建築家「番匠カンナ」はVR世界の建築のパイオニアで、現実にある有名な建築物についてのデザインや技術の背景の話や、VR世界における建築のあらたな可能性について語る動画をいくるか投稿している。
 上の動画では、現実には建てられることのなかった18世紀建築家のアイデアスケッチが、VR世界で立派な建造物として姿をあらわす。
 この動画、単純にトピックがおもしろいのと、動画の緩急が見事で本当にびっくりする。絶対みてほしい。

可能性

 上の動画タイトルにもついている【VRアカデミア】というのは、いろいろな分野のひとびとが自分の専門分野・明るい分野について、Vtuberとして講義の形式の動画をアップして知の共有しよう、という自由参加のプロジェクトのようである。まだまだ人数も少なく発展途上で手さぐりしている印象だが、おもしろい試みだと思うし、規模が100倍くらいになってどんどん盛り上がってほしい。

 今回は「VRでしかできないこと」というテーマで記事をまとめていて、この視点から言えば、VRアカデミア自体は必ずしもその範疇ではなさそうである。じっさい塾講師や専門家の各種解説動画というのは実写のものが数多くある。
 VRアカデミアは、序言で述べた「VRでしかできないこと」にこだわりすぎていると陥る落とし穴のひとつ、「新しいメディアでの少し形をかえた再演が大きな価値がある可能性」のように思う。

 いまいちど、そうしたことを心に留めつつ、でもやっぱり、VRでしかできないことのフロンティアは、おもしろい。話が散らかってきたので今日はここまで。