ゲームにおける「選択肢」と時間

ゲームと「選択肢」

一般的な小説や映画が一本道のストーリーを辿るのとは違って、ゲームには道筋やゴールが複数あるもの(マルチエンディング)が数多く存在する。有名なのはドラゴンクエスト1(FC版)だろうか。ラスボスである竜王の居城にたどりついた主人公に、竜王から次のような提案が持ちかけられる。

よくきた (主人公)よ。 わしが おうのなかの おう りゅうおうだ。
わしは まっておった。 そなたのような わかものが あらわれることを…
もし わしの みかたになれば せかいの はんぶんを (主人公)に やろう。
どうじゃ? わしの みかたに なるか?

この提案に「いいえ」と答えるとラストバトルに突入するが、「はい」と答えると

では せかいの はんぶん やみのせかいを あたえよう!

に続くメッセージの後、画面が暗転して一切の操作が不可能になる。

ドラゴンクエスト1には、竜王を倒して到達するエンドと、やみのせかいに閉じ込められるエンド、いわゆる「グッドエンド」と「バッドエンド」があるわけで、こういった複数のエンドやルートを分岐させる起点となるのが、この「はい/いいえ」といった選択肢である。

選択肢の順向性

選択によって変わるのはふつう選択後の未来であって、基本的に「いま」何を選択しようが過去の履歴が変化することはない。これを仮に選択肢の順向性と呼ぶことにしよう。
現実における選択はすべて順向的であると言ってよさそうである。
ゲームにおいてもほとんどの選択肢は順向的であるが、中には故意か故意でないか、過去に遡及的に作用する逆向性の選択肢が存在する。次の画像を見てみよう。

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ゲーム画面より引用。

これはアイドルマスターミリオンライブ! シアターデイズのスクリーンショットである。アイドルの北沢志保が書店で絵本作家とトークショーをする、という内容のイベントで、「プロデューサーは作家の先生の本を読んできたか」との問いに対する回答として三つの選択肢が提示される。

  • もちろん全部読んだ

  • 一冊だけ読んだ

  • 俺の書いた絵本を読んでくれ!

最後の選択肢は措くとして、前ふたつの「全部読んだ」と「一冊だけ読んだ」は両立し得ないものだ。これらの選択肢を選んだ後の展開は、

  • もちろん全部読んだ→「もちろん、全部読んできたよ。トーク中に志保が困っても、助けられるようにな!」

  • 一冊だけ読んだ→「その……時間がなくて……一冊だけ……」

となっており、このプロデューサーがとんでもない大ウソつきでないなら、この選択肢から何を選んだかによって遡及的に過去が決定された、ということになる。

こうした選択肢は決して珍しいものではない。たとえば「後ろから声をかけられた。この声は……」に続く選択肢として「Aだ」「Bだ」が示され、選択後「A/Bの選択した方」との会話がはじまる、というような構造をいくつかの作品で見た気がするが、この場合も「後ろから声をかけてきたのが誰だったか」という過去が遡及的に生成されている。

先ほど示したドラゴンクエスト1は、FC版では竜王の「世界の半分をやろう」に対して「はい」を選ぶとゲームオーバーになっていたのが、SFC版からは暗転後に宿屋で目覚めるという「夢オチ」に改変された。これも「はい」を選ぶか「いいえ」を選ぶかによって「竜王との会話が夢か現実か」が遡及的に決定される、逆向性の選択肢である。(竜王を倒す方のエンドも夢だと考えると、一応の整合性はつくけどかなしいね)

特に根拠なくこの手の選択肢が現れると、因果的にそれはおかしいんじゃないの? とモヤモヤしてしまう。

逆向性の利用

逆向性の選択肢を演出として利用した作品が少ないながらあって、こういった異常な性質の選択肢が異常な状況を表現するのに一躍買っている。
この構造が巧みに用いられているのが、「Never7」である。(「Remember11」でも類似の演出が試みられている)。

Never7は2000年にKIDから発売されたアドベンチャーゲームで、離島での大学のゼミ合宿を舞台に、主人公に奇妙な出来事(デジャヴや未来視の類)が次々と降りかかる。うまくやらないと7日目を迎えることなく死んでしまうので「Never7」というタイトルがついている。

Never7」では、逆向性の選択肢のもつ演出効果の可能性として、2つの方法を示した。

ひとつは「ドッキリが行われている」ことの演出。 「今日の夕食が何か」を主人公が予想するという展開があって、「カレー」「肉じゃが」「シチュー」といった選択肢が提示されるのだが、何を選択しても「それを作るつもりだったけど、何でわかったの?」というレスポンスが帰ってくる。
この逆向性は「登場人物は何を予想されても「それを作るつもりだったけど、何でわかったの?」と返すドッキリをしていた」という解釈によって解けるわけである。

もうひとつが「世界が異常である」ことの演出。
主人公の思考が(遡及的に)世界に影響を及ぼしてしまうような物語であれば、「選択によって過去の世界が書き換わった」ことの演出として逆向性の選択肢を利用できるのである。